オンライン学習サービス≠リスキリング

「学び放題のオンライン学習サービスを契約して、社員が自由に学べるようにしよう」
リスキリングの事例として、このような例が多く見受けられます。

しかし、これだけでリスキリングは成功しません。
リスキリングは、全社的な業務変革に必要な人材を自社で作り出すことだからです。

オンライン学習サービスは、社員が自主的に学び、会社はあくまで支援するもの。福利厚生型の学びです。業務変革とは直結しません。

下図の著書でも有名な、一般社団法人 ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事の後藤 宗明 氏も以下のように述べています。

リスキリングに取り組んでいる企業でも失敗事例が出始めています。
それは「オンライン講座を会社で契約しました。好きなことを学んでください」という方式です。

画像引用元:https://jp-reskilling.org/book

文章引用元:後藤 宗明 著 – 自分のスキルをアップデートし続けるリスキリング

自分のスキルをアップデートし続けるリスキリング

つまり、業務変革の主体である会社こそ、社員のリスキリングを主導する必要があるのです。
その最たる例が「企業内大学」と呼ばれるものです。

主導的な企業と、非主導的な企業の違い

企業の学びを長年研究されてきた
国立大学法人宇都宮大学 データサイエンス経営学部 大嶋 淳俊 教授は、
“「企業内大学」を設立する企業が目立ってきている”とし、その理由を以下のように述べています。

リスキリングを展開していくのに『企業内大学』というコンセプトが非常に分かりやすいということが影響しています。

オンライン学習サービスだけでは失敗する5つの理由

後藤氏が「失敗事例が出始めている」と指摘しているように、失敗する理由は、具体的に明らかになってきています

理由 1社員の学びを統制できないから

「オンライン学習サービスなら、数多の講座を自由に学べる」
これは良さそうですが、会社の業務改革とは異なる学びを誘発するリスクもあります。

もし、業務改革に関係のない学びをさせない仕組みがないままサービスだけ提供してしまうと、
無計画で無秩序な学習が行われ、業務改革に繋がらず、失敗する可能性が高まってしまいます。

無計画で無秩序な学習

そのため、昇給昇格もなく、デジタル分野の学習機会などを提供すると、単なる転職する意欲の高い従業員へ武器を提供しておしまい、という結果になるのです。

文章引用元:後藤 宗明 著 – 自分のスキルをアップデートし続けるリスキリング

理由 2キャリアアップに直結しないから

人材育成系の社員教育に取り組んでいる会社の悩みNo.1は、「使ってくれない、学んでくれない」です。特に、福利厚生的なオンライン学習サービスを導入した会社でその声は顕著です。

なぜか。それは「受講が自身のキャリアに繋がるのかわからない」からです。
業務に追われるなか、キャリアに繋がるかもわからない講座を受ける意欲は、なかなか湧きづらいでしょう。

受講が自身のキャリアに繋がるのかわからない

この課題を解決するためには、「どの学びが、どのキャリアに繋がるのか」を会社が明示することが必要です。

「どの学びが、どのキャリアに繋がるのか」を会社が明示する

一方で、諸外国の労働者はなぜ自ら積極的に学ぶかというと、昇給・昇格に直接結びつき、自身のキャリアを大きく成長させることに直結しているからです。

文章引用元:後藤 宗明 著 – 自分のスキルをアップデートし続けるリスキリング

「学びがキャリアに繋がることを会社が明示する」ことは、離職率の低下にも繋がると考えられます。
下記の調査結果から、社員のキャリアデザインを支援することは、離職率の低い企業ほど行っているためです。

理由 3習得スキルを管理できないから

リスキリングの目的をいま一度思い出してください。
全社的な業務変革に必要な人材を自社で作り出すことです。
つまり、育成した人材を業務改革に適した組織・役職に配置するまでがリスキリングです。

企業は

  • 「学び」を通して社員のスキルがどのように向上したか
  • 「人事制度」で定めた組織・役職にはどのスキルが必要か

この2つを人事が把握し、「リスキリングの結果(社員のスキルや能力)を基に人材配置できる」ようにしなければなりません。

「学び」と「人事制度」の連動、これがリスキリングの成功には必要不可欠なのです。

ですが、オンライン学習サービスは「学習」がメインです。
その学習履歴だけでは、社員の獲得スキル・能力をどうしても把握できません。
すると、「社員はせっかくスキル・能力を身に着けたのに、人材配置に活かせなかった…」と本末転倒な事態となってしまいます。

オンライン学習サービスでは、必要なスキルや能力を習得できたか分からない

宇都宮大学の大嶋 淳俊 教授も以下のように述べています。

企業内大学で習得した知識・スキルを現場で活用し、成果を出し続けるには人事制度との連動が欠かせません。
能力開発の仕組みとして企業内大学を捉えるだけではなく、人材マネジメントの全体像の中に企業内大学を位置づけ、経営戦略と連携させることが重要なのです。

理由 4汎用的な教材しかないから

オンライン学習サービスは、同じ教材を多数の企業や個人に提供するビジネスです。
つまり、教材の中身は汎用的(広く企業や個人にあてはまるもの)となります。

これは裏を返せば、汎用的な教材は各企業の業務の仕組み・やり方に直結した内容とはなり得ません
そのため、オンライン学習サービスの教材だけを学んでも、具体的な業務には活用できずに終わり、となってしまうのです。

オンライン学習サービスでは、具体的な業務には活用できずに終わり

この失敗を避けるには、

  • 自社の業務の仕組み、やり方
  • 業務改革の方針(リスキリング後の人材に期待すること)

に落とし込んだ教材を社内で作ることが求められます。

実際に、上記のような教材を社内で作る動きは広まっています。
オンライン社内教育に関する調査(*)によると、

  • “社内で独自に設計・開発したコース”を受講する従業員の割合が最も多く
  • オンライン学習サービスに相当する、“一般公開型のオンライン教育プラットフォーム”を受講する割合に対して20%もの差が出ています。
あなたの会社では、社内教育にどのような学習システムを利用していますか?

理由 5一方通行の学びだから

オンライン学習サービスの講座は一方向、既存の教材を閲覧し、テストに回答して理解度を確認するものがほとんどです。
講師や他の社員と議論したり、閲覧した知識を深堀して、自分事に落とし込む工程はほとんどありません

オンライン学習サービスでは、自分事に落とし込む工程はほとんどありません

リスキリングで新たなスキルを獲得してもらう目的は、新しく生まれる仕事ややり方の変わる仕事でも、引き続き価値創出をしてもらうことだ。だとすればリスキリングのプログラムの仕上げには、学習したことを実践する場を提供することが必要なのは言うまでもない。学習はしたが、業務は以前のまま、デジタルスキルを使うこともない、というのでは本末転倒である。

効果が出る“真のリスキリング”とは

企業がリスキリングを成功させるためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
当社で国内の多くの事例を調査した結果、以下のような体系があることが分かりました。

企業主体で実現する “真のリスキリング”
① 人材要件の定義 経営戦略からリスキリングで獲得すべき人材、と必要なスキルを定義
② 実践的な研修準備 「実践的」スキル・能力を獲得する教材、および研修を準備
③ 学びの統制 キャリアプランに沿って社員に受講を選択させる
④ 動機付け 「キャリアアップに繋がるスキルはなにか」「そのために必要な学びはなにか」を示す
⑤ スキル管理 社員のスキルを人材配置に活かし、「学び」と「人事制度」を連動させる

上記を実行する全社的な組織こそ企業内大学(⑥)であり、企業主体のリスキリングそのものです。
すなわち、企業内大学がリスキリングに最適な手段と言えるのです。

さらに、企業内大学のベストプラクティス(上図赤色部)は、オンライン学習サービスだけでは失敗する理由も解決します。

失敗する理由 解決策 企業内大学のベストプラクティス
理由1:学びを統制できないから ③ 学びの統制 選択型研修
理由2:キャリアアップに直結しないから ④ 動機付け 社内ライセンス
理由3:習得スキルを管理できないから ⑤ スキル管理 LMSとタレマネシステムの連携
理由4:汎用的な教材しかないから ② 実践的な研修準備 教材内製化
理由5:一方通行の学びだから ② 実践的な研修準備 ブレンデッド研修

そこで、本ガイドでは、①~⑥をどのように実現していけばよいのか、1つずつ解説していきます。

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