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ジョブ型人事指針 じょぶがたじんじししん

公開日:2024.10.29
ジョブ型人事指針

近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。

本用語集では、2024年8月に政府が発表した「ジョブ型人事指針」をもとに、ジョブ型人事に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。

「ジョブ型人事指針」をひとことでいうと? 

ジョブ型人事とは、職務内容を明確に定義して、その職務内容(ジョブ)に基づいて従業員の評価や配置を行う人事の仕組みです。2024年8月に政府が発表した「ジョブ型人事指針」は、この制度の導入推進を示すガイドラインです。

ジョブ型人事指針の基本概念

「ジョブ型人事指針」は、企業が個々の従業員の職務に基づいて管理や評価を行うことを推奨するガイドラインです。この指針は、日本企業の競争力を高めるために、ジョブ型の人事制度を導入することを促し、従来の年功序列や一括採用に依存しない人事の在り方を目指しています。

ジョブ型人事指針が策定された背景

2024年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024」では、個々の従業員が自分でキャリアを選び、リスキリング【1】を通じて成長できる環境を整えることが重要とされています。この計画を背景に、ジョブ型人事を推進し、働き方改革の一環として「ジョブ型人事指針」のガイドラインが策定されました。

    • 労働市場の急速な変化

      技術革新やグローバル化により、労働市場が大きく変化しています。従来の日本型雇用システムでは、これらの変化に迅速に対応することが困難になっています。

    • 日本企業の国際競争力の低下

      従来の年功序列や終身雇用を基本とする人事制度が、グローバル市場での競争力低下につながっているという認識が広がっています。

    • 少子高齢化と労働力不足

      日本の人口構造の変化に伴い、多様な人材の活用が急務となっています。ジョブ型人事制度は、高齢者や外国人労働者の活用にも適しています。

    • 働き方改革の推進

      政府が推進する働き方改革の一環として、リモートワークなど多様な働き方を可能にする人事制度の必要性が高まっています。

日本政府は企業の競争力強化と労働市場の活性化を目指し、ジョブ型人事指針を策定しました。この指針は、日本の雇用システムを国際標準に近づけることで、上記の課題に対応することを目的としています。

参考リンク:新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 (2024年改訂版)

ジョブ型人事指針の最新動向(2024年政府発表)

2024年8月28日、政府は「ジョブ型人事指針」を発表しました。この指針では、ジョブ型人事を実践する20社の事例を公開するとともに、以下のポイントが強調されています。本指針では、各企業が自社の経営方針にあわせて参考にできるよう、ジョブ型人事の導入を推奨しています。

    • キャリア選択の自由化

      会社が従業員のキャリアを決める時代から、今後は「自分で選ぶ」時代になります。新しい指針では、各仕事に求められるスキルがはっきり示され、それを身につけることで、労働者が自分の意思で新しい仕事に挑戦できるようにします。

    • スキルに基づいた仕事の選択

      各仕事に必要なスキルが明確になり、働く人は自分のスキルに合った仕事を選びやすくなります。また、リスキリング【1】で新しいスキルを身につけることで、別の仕事にチャレンジする機会も増えます。

    • 企業内外での自由なキャリア移動

      企業の中だけでなく、外部の会社でも働けるチャンスが増えます。今までよりも簡単に外部の経験者を採用したり、他の会社で働くこともできるようになり、仕事を自由に選べる環境が整備されていきます。

    • 日本企業の競争力強化

      専門的な知識を持つ人材の採用や、若手の登用がしやすくなります。また、グローバルな人材の確保も容易になり、企業競争力を維持・向上させます。

この指針によって、働く人は今まで以上に自分でキャリアを選びやすくなり、企業も時代に合った人材管理ができるようになります。日本の労働市場が大きく変わるきっかけとなるこの動きに注目が集まっています。

参考リンク:ジョブ型人事指針(2024年8月28日政府発表)

ジョブ型人事制度と従来の人事制度の違い

従来の日本型人事制度(メンバーシップ型)【2】は、終身雇用や年功序列を特徴とし、企業への忠誠心や長期的な人材育成を重視してきました。しかし、急速に変化する事業環境において、この制度は柔軟性に欠け、競争力の面で課題を抱えています。
一方、ジョブ型人事制度は、職務に基づく明確な役割と責任、成果主義的な評価、専門性の重視を特徴としています。また、個人のキャリア形成の観点からも、自身の市場価値を高める機会を提供します。

   メンバーシップ型  ジョブ型
 採用基準  潜在能力  職務に必要なスキル
 評価基準  年功と能力  職務遂行能力と成果
 キャリアパス  不明確  明確
 異動  頻繁  限定的
 報酬体系  年功給  職務給
 チームワーク  組織全体の調和重視  職務中心の協力
 雇用の柔軟性  低い(長期雇用前提)  高い(職務に応じて変動)

このような背景から、日本企業においてもジョブ型人事制度の導入が進みつつあり、従来の日本型人事制度からの移行や融合が模索されています。

ジョブ型人事制度の取り組みと企業の事例

ジョブ型人事指針では、ジョブ型人事制度を実践している20社の事例を公開しています。
ここでは先駆的にジョブ型人事制度を導入している代表的な企業の事例を紹介します。

大規模なポスティングで人材流動化を促進 〜 富士通株式会社

富士通では、2020年に管理職層、2022年に一般社員に対してジョブ型人事を2段階に分けて導入しました。ポスティング制度【3】を活用して、約27,000人の従業員が異動希望を提出し、そのうち9,500人以上が実際に異動を経験しました。また、異動後の社員の約8〜9割が「自分の強みを活かせている」と感じており、エンゲージメント【4】も高まっています。

参考リンク:ジョブ型人事指針:導入事例(1)富士通株式会社

適所適材を実現するジョブ型人事 〜 株式会社日立製作所

日立製作所は、2014年にジョブ型人事制度を管理職に導入し、その後国内グループ会社に順次展開しています。すべての職種や階層ごとに求められる仕事内容や責任などを定義した約540種類の職務記述書(ジョブディスクリプション)【5】を作成することで、職務の責任を明確に定義し、適切な人材をその職務にマッチさせることを目指しています。

参考リンク:ジョブ型人事指針:導入事例(2)I株式会社日立製作所

DXコア人材の育成とジョブ型人事の実践 〜 KDDI株式会社

KDDIは、2020年にジョブ型人事制度を導入し、年齢や性別を問わず、成果に基づく評価で社員の挑戦を支援しています。社内向け教育機関「KDDI DX University」を設立するなど特にDX人材【6】の育成を重視しています。「DXコア人材の育成プログラム」は、2023 年 12 月までに約700名が受講し、受講者は社内のDXプロジェクトをリードする役割を担っています。

参考リンク:ジョブ型人事指針:導入事例(9)KDDI株式会社

ジョブ型人事制度の導入における課題と対策

文化の違いと従業員の不安

課題:

従来の年功序列や終身雇用の概念に慣れた従業員にとって、ジョブ型人事制度は大きな変化となります。特に、自身の職務や評価基準が明確になることへの不安や、日本的経営の価値観との間にギャップが生じる可能性があります。

対策:

長期的な視点で企業文化の変革に取り組み、新旧の価値観の調和を図ることが重要です。
全社員向けの説明会や研修で従業員からのフィードバックを積極的に収集し、制度設計に反映させます。また、さまざまな導入事例を社内で共有し、定期的な従業員満足度調査を実施することも必要です。

評価基準の難しさ

課題:

従来の年功序列型の評価とは異なり、個々の職務の価値や貢献度を適切に測定し、公平に評価することが求められます。また、異なる職務間での評価の整合性を保つことも課題となります。

対策:

職務ごとにKPI【7】を設定し、360度評価【8】など多角的な評価手法を導入します。また、評価者向けのトレーニングプログラムを実施し、評価結果に対する異議申し立ての仕組みを整備して透明性を確保します。

幅広い経験の機会減少

課題:

従業員が自身の専門性を深めることは重要ですが、同時に、幅広いスキルや経験を獲得する機会が減少する可能性があります。また、将来のリーダー育成にも影響を与える可能性があります。

対策:

継続的な教育制度を充実させることで従業員の成長を支援できます。職務ローテーションプログラムや社内公募制度を導入したり、メンタリングプログラムで経験豊富な従業員から若手への知識伝達を促進することも効果的です。

経営者・人事担当者のための「ジョブ型人事制度」Q&A

Q1: 「ジョブ型人事制度」は日本の企業文化になじまないのでは?

A: 適切に導入すれば日本企業にもなじむ可能性が高いです。日本的経営の良い面とジョブ型人事制度の利点を組み合わせたハイブリッド型の導入も可能です。ただし、導入には従業員の理解と納得を得るための丁寧な説明と、段階的な移行が重要です。

Q2: 「ジョブ型人事制度」を導入すると、従業員の定着率は下がるのでは?

A:  適切に導入された場合、キャリアパスの明確化、適材適所の実現、公平な評価により、従業員の満足度とモチベーションが高まり、定着率が向上する可能性があります。ただし、導入初期には一時的に離職率が上がる可能性もあるため、丁寧なコミュニケーションと段階的な導入が重要です。

Q3: 「ジョブ型人事制度」を導入すると、社員の給与を上げないといけませんか?

A:  必ずしも給与が上がるわけではありません。ジョブ型人事制度では、給与は職務の価値と個人の貢献度に基づいて適正に設定されます。つまり、一律に給与を上げるのではなく、各職務の重要性や市場価値、そして従業員の実績に応じて報酬が決定されます。

まとめ

ジョブ型人事は、仕事の内容や責任に基づいて人材を評価・配置する新しい人事管理の方法で、グローバル化や働き方の多様化に対応し、公平性や効率性を高める効果が期待されています。一方で、従来の制度からの移行には課題もあり、段階的な導入や丁寧な説明が重要です。今後、日本企業においても、ジョブ型とメンバーシップ型のハイブリッドな形で、徐々に浸透していくことが予想されます。

関連用語

【1】リスキリング(Reskilling)

従業員に新しいスキル、能力を習得させることで、職場の変化や新たな業務にも対応できるようにする取り組み。

【2】メンバーシップ型

従業員を組織の一員として長期的に雇用し、必要に応じて様々な職務を割り当てる「人に仕事をつける」日本の伝統的な雇用システム。

【3】ポスティング制度

社内で空きポジションや新規ポジションを公開し、従業員が自由に応募できる制度。ジョブ型人事制度の重要な要素のひとつ。

【4】エンゲージメント (Engagement)

従業員の仕事や組織に対する熱意、関与度を表す概念。生産性向上や離職率低下につながり、組織の成長に重要な要素。

【5】職務記述書(ジョブディスクリプション)

特定の職務の責任、必要なスキル、資格、期待される成果を詳細に記述した文書。ジョブ型人事において採用や評価として活用される。

【6】DX人材

デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや業務プロセスの変革を推進できる人材。IT知識だけでなく、ビジネス戦略や組織変革の能力も求められる。

【7】KPI (Key Performance Indicator)

組織や個人の業績を評価するための主要な指標。目標達成度や効率性を測定し、戦略的な意思決定や改善活動の基準となる。

【8】360度評価

従業員の業績や行動を、上司、同僚、部下、顧客など多角的な視点から評価する手法。
総合的な評価が可能で、自己認識と他者評価のギャップを明確にする。