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ジョブ型雇用 じょぶがたこよう

公開日:2024.11.05
ジョブ型雇用

近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。

本用語集では、日本でも急速に注目されている「ジョブ型雇用」に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。

「ジョブ型雇用」をひとことでいうと? 

ジョブ型雇用とは、個人の職務や役割を明確に定義し、その職務に適した人材を採用・配置する雇用形態です。

ジョブ型雇用の基本概念

ジョブ型雇用では、業務ごとに詳細な職務記述書(ジョブディスクリプション)【1】が作成され、その職務に必要なスキルや経験が明確に示されます。個人の専門性や成果が評価の中心であり、従業員はそのポジションに応じた報酬や昇進を受けます。特にグローバル企業やIT企業では、この雇用形態が一般的です。

日本の雇用形態の変遷とジョブ型雇用が注目される背景

日本の雇用形態は、戦後の経済復興期から高度成長期にかけて確立された独特の雇用慣習に大きく影響されてきました。主要な特徴は、以下の3点に集約されます。

    • 終身雇用:企業が従業員を長期的に雇用し、容易に解雇しない
    • 年功序列:勤続年数に応じて給与や地位が上昇する
    • 新卒一括採用:学校を卒業した学生が一斉に労働市場に参入する

この日本的雇用形態は、メンバーシップ型雇用【2】とも呼ばれ、高度経済成長期には企業の安定と従業員の忠誠心を高め、日本経済の発展に大きく貢献しました。メンバーシップ型雇用では、従業員は特定の職務ではなく、組織の一員として採用され、柔軟な配置転換や長期的な育成が特徴です

しかし、1990年代のバブル崩壊以降、日本的雇用システムの限界が顕在化し始めました。日本は経済の低迷期に入り、多くの企業が人員削減や賃金体系の見直しを迫られ、「失われた10年」と呼ばれる経済停滞期を経験しました。同時に、労働市場の流動化や成果主義の導入など、新たな雇用形態への移行が模索されはじめました。

2000年代に入ると、グローバル化、技術革新の加速、少子高齢化による労働力人口の減少など、日本企業を取り巻く環境が大きく変化しました。これらの変化に対応するため、多くの企業が従来の雇用形態の見直しを迫られるようになりました。

日本の伝統的な雇用形態が変化しはじめる中、ジョブ型雇用への注目が高まりはじめました。元々欧米で主流だったこの雇用形態は、グローバル化や技術革新の進展に伴い、日本企業でも徐々に導入が検討されるようになりました。特にCOVID-19パンデミック以降、リモートワークやデジタルトランスフォーメーション(DX)【3】の急速な普及により、企業はより専門的なスキルを持つ人材を求めるようになり、ジョブ型雇用への移行が加速しています。

このような背景から、日本企業はジョブ型雇用への移行を検討せざるを得ない状況に直面しています。

最新の動向: 2024年政府発表の「ジョブ型人事指針」

2024年8月、日本政府は「ジョブ型人事指針」【4】を発表しました。この指針は、ジョブ型雇用の導入を促進するとともに、ジョブ型人事を実践する20社の事例を公開しています。特に、以下のポイントが強調されています。

    • キャリア選択の自由化
    • スキルに基づいた仕事の選択
    • 企業内外での自由なキャリア移動
    • 日本企業の競争力強化

この指針により、多くの日本企業がジョブ型雇用の導入や既存の人事制度の見直しを加速させることが予想されます。ただし、完全なジョブ型への移行ではなく、日本の雇用慣行の良さを活かしたハイブリッド型の採用が主流になると考えられています。

参考リンク:ジョブ型人事指針(2024年8月28日政府発表)

ジョブ型人事制度の取り組みと企業の事例

現在、多くの企業が、従来の日本特有の雇用形態からジョブ型雇用への移行、あるいはその両者を組み合わせたハイブリッド型の採用を試みています。ここでは、ジョブ型雇用の考え方を基にした、より包括的な人材マネジメントのアプローチであるジョブ型人事制度【5】を積極的に取り入れている企業の事例を紹介します。

女性リーダー育成と自律的キャリアの推進 〜 資生堂株式会社

資生堂は、2021年からジョブ型人事制度を導入し、グローバルで共通の評価基準を設けました。特に、女性リーダー育成に注力し、「NEXT LEADERSHIP SESSION for WOMEN」では、これまでの受講者のうち47%が昇格し、女性リーダー比率向上に寄与しています。日本国内の女性管理職比率は2017年の29%から、2024年は40.0%に上昇し、リーダー育成とジェンダー平等の両面で成果を上げています。

参考リンク:人材育成と公正な評価|資生堂株式会社

ジョブ型雇用が組織を活性化〜三井化学株式会社

三井化学ではジョブ型人事制度である職務評価制度を導入しており、年功にとらわれず職務サイズの大きさに準じた職務給を柔軟に提示しています。2022年度は、キャリア採用への応募者数は前年度比2.4倍、また、女性の採用実績数は前年度比350%以上と大幅に増加し多様性の促進にも寄与しています。従業員のエンゲージメントスコア【6】も向上し、組織の活性化に貢献しています。

参考リンク:三井化学レポート2023|三井化学株式会社(PDF)

ジョブ型とメンバーシップ型の融合で人材を確保〜三菱UFJ信託銀行株式会社

三菱UFJ信託銀行は、急速に変化する金融業界に対応するため、ジョブ型とメンバーシップ型のハイブリッド型人事制度を導入しています。高度な専門性が求められる職務に対して職務記述書(ジョブディスクリプション)【1】に基づく評価と報酬を行う一方で、複数の業務経験を必要とする人材の育成を重視し、従来のメンバーシップ型を維持しています。これにより、社会インフラを支える人材の確保と業務の専門性向上を目指しています。

参考リンク:三菱UFJ信託銀行の 人事制度について|三菱UFJ信託銀行株式会社(PDF)

1400個のジョブディスクリプションでキャリア形成促進〜パナソニックコネクト株式会社

パナソニックコネクトは、2023年度からジョブ型人事制度を導入し、約1,400個のジョブディスクリプションを公開しました。この制度は約10,000名の社員に適用され、個々の役割を明確にし、自律的なキャリア形成を促進しています。特に「コネクト社内eチャレンジ」公募制度を活用し、社員の自主的な部署異動を支援しており、2022年度には332名が応募するなど、社員の積極的なキャリア開発が進められています。

参考リンク:キャリアオーナーシップをもつ未来作り|パナソニックコネクト株式会社

ジョブ型雇用の導入における課題と対策

ジョブ型雇用は、日本の雇用システムに変革をもたらす効果的な方法として注目を集めています。ただし、導入にあたっては課題もあり、企業はこれらの課題に丁寧に向き合い、適切な対応を心がける必要があります。

職務定義の難しさ

課題:

各職務の内容、責任、必要なスキルを適切に定義し文書化することが難しく、特に変化の激しい職種では定義が追いつかないことがあります。また、職務を細かく定義しすぎると組織の柔軟性が失われる可能性もあります。

対策:

外部コンサルタントの活用や従業員との対話を通じて段階的に職務を定義していき、定期的な見直しと更新を行います。また、ある程度の柔軟性を持たせた職務定義を心がけ、状況に応じて調整できるようにします。

公平な評価の仕組みづくり

課題:

従来の年功序列的な評価からの転換が求められるため、仕事の内容に基づいて、公平で分かりやすい評価の仕組みを作る必要があります。

対策:

明確な評価基準を設定し、定期的に見直します。360度評価【7】など多角的な評価方法も取り入れ、評価する人への教育を実施することも重要です。

世代間のギャップと価値観の相違

課題:

若手社員と中高年社員の間で、ジョブ型雇用に対する理解や受け入れに差が生じる可能性があります。特に、キャリアパス【8】や評価基準の変更に対する不安や抵抗感が世代によって異なる傾向があります。

対策:

各世代の特性を考慮したコミュニケーション戦略を立て、丁寧な説明と対話を重ねることが大切です。例えば、世代混合のワークショップやプロジェクトを実施し、若手社員が中高年社員から経験やノウハウを学び、逆に中高年社員が若手社員から新しい技術や考え方を学ぶ機会を設けます。

経営者・人事担当者のための「ジョブ型雇用」Q&A

Q1: 「ジョブ型雇用」はチームワークを重視する日本の職場文化と相容れないのでは?

A: 日本の職場はチームワークを重視しますが、ジョブ型雇用は個々の成果に基づく評価を求めます。しかし、役割が明確であれば、チーム内の責任分担が明瞭になり、チーム全体の効率向上や目標達成に貢献することも可能です。

Q2: 「ジョブ型雇用」を導入することで人件費はどう変わりますか?

A: ジョブ型雇用の導入により、短期的には人件費が増加する可能性があります。こ
れは、職務に応じた適切な報酬設定や、専門性の高い人材の獲得にコストがかかる
ためです。しかし長期的には、適材適所の配置や成果に基づく評価により、生産性
が向上し、結果として人件費対効果が改善されることが期待されます。

Q3: 成果が見えにくい間接部門や管理部門の評価はどうすべきですか?

A: 総務、人事、法務、経理などの間接部門は、直接的な売上や利益を生み出すわけではありませんが、新しいアイデアの提案や部門全体の問題解決能力も評価の基準に含めると良いでしょう。例えば、プロセス改善やコスト削減の提案などKPI【9】の導入で間接的な貢献を評価することが重要です。

まとめ

ジョブ型雇用は、日本の雇用システムに大きな変革をもたらす可能性を秘めていますが、ジョブ型雇用の導入は単なる制度変更ではありません。組織文化の変革や、従業員の意識改革も必要となります。また、日本の雇用慣習の良さを完全に捨て去るのではなく、ジョブ型とメンバーシップ型のハイブリッドな形を模索する企業も増えています。

企業と従業員が共に成長し、新しい価値を創造していくための重要なツールとして、その可能性を最大限に引き出すためには、継続的な対話と改善が不可欠です。

関連用語

【1】職務記述書(ジョブディスクリプション)

特定の職務の責任、必要なスキル、資格、期待される成果を詳細に記述した文書。

【2】メンバーシップ型雇用

従業員を組織の一員として長期的に雇用し、必要に応じて様々な職務を割り当てる「人に仕事をつける」日本の伝統的な雇用システム。

【3】デジタルトランスフォーメーション(DX)

デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織文化を根本的に変革し、顧客価値や競争力を高めるプロセス。単なるIT化ではなく、デジタル技術を核とした経営戦略の変革を意味する。

【4】ジョブ型人事指針(リスキリング用語集④

2024年8月に政府が発表した、ジョブ型人事制度の導入・運用に関する具体的なガイドライン。

【5】ジョブ型人事制度

職務内容や役割を明確に定義し、それに基づいて採用・評価・報酬を決定する人事制度。

【6】エンゲージメントスコア(Engagement Score)

従業員の仕事や組織に対する熱意、コミットメント、関与度を表す「エンゲージメント」のレベルを数値化したもの。組織の健全性や改善点を把握できる。

【7】360度評価

従業員の業績や行動を、上司、同僚、部下、顧客など多角的な視点から評価する手法。
総合的な評価が可能で、自己認識と他者評価のギャップを明確にする。

【8】キャリアパス(Career Path)

従業員の職業人生における成長の道筋。個人の能力開発や目標達成を支援するとともに組織の人材育成戦略にも役割を果たす。

【9】KPI (Key Performance Indicator)

組織や個人の業績を評価するための主要な指標。目標達成度や効率性を測定し、戦略的な意
思決定や改善活動の基準となる。