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エンゲージメント えんげーじめんと

公開日:2024.11.26
エンゲージメント

近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。

本用語集では「エンゲージメント」に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。

「エンゲージメント」をひとことでいうと?

エンゲージメントとは、従業員が企業や仕事に対して持つ積極的な関わりや情熱を指す言葉です。

エンゲージメントの基本概念

エンゲージメントは、従業員が企業の成功に自発的に貢献しようとする情熱や忠誠心を表す概念です。単なる「やる気」や「満足度」ではなく、従業員が会社や仕事に対してどれだけ積極的に関与しているかを示す指標です。エンゲージメントが高い従業員は、自主的に業務に取り組み、企業の目標達成に向けて強い意欲を持って行動する傾向があります。

エンゲージメントが注目されている背景 

エンゲージメントという言葉は、1990年代後半から2000年代初頭にかけて広がりました。この時期、企業は従業員のモチベーションや満足度だけでなく、仕事にどれだけ積極的に関与し、情熱を持って取り組んでいるかに注目するようになりました。この新たな考え方を表現するために、「従業員エンゲージメント」という概念が広がりました。エンゲージメントが注目されるようになった背景には、以下のような要因があります。

競争環境の激化と生産性向上の必要性

1990年代後半から、グローバル化や技術革新の進展により、企業間の競争が激化しました。企業は、単なる従業員満足度の向上ではなく、従業員がどれだけ積極的に企業の目標に貢献できるかを重視するようになりました。生産性やイノベーションを向上させるためには、高いエンゲージメントを持つ従業員が不可欠であるという認識が広がりました。

ギャラップ社による調査の影響

エンゲージメントという概念を広めた重要な研究の一つが、ギャラップ社(Gallup)による調査です。ギャラップは、1990年代から「Q12」と呼ばれる12の質問を通じて従業員エンゲージメントを測定し、その結果が企業の業績と強い相関があることを示しました。この調査結果は、多くの企業にインパクトを与え、エンゲージメント向上が企業成長に直結するという考えが定着しました。

参考リンク:Ask the Right Questions With the Q12® Survey|GALLUP

人的資本経営【1】の重要性

1990年代以降、企業の価値が物的資本(設備や土地)ではなく、人的資本(従業員のスキルや知識、経験)によって左右されるという考えが浸透しました。企業は従業員の能力を最大限に引き出すことが競争優位性の鍵であると認識し、エンゲージメントを高める施策が注目されるようになりました。

人材版伊藤レポート【2】の提唱

2020年、経済産業省により人材版伊藤レポートが公表されたことで、日本におけるエンゲージメントへの注目がさらに高まりました。このレポートは、日本企業における人的資本の価値を可視化し、戦略的に活用する必要性を提言しています。レポートの中で、エンゲージメントは人的資本を最大限に引き出すための重要な要素として位置づけられています。

参考リンク:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~

エンゲージメントの向上がもたらす効果

エンゲージメントの向上は、企業に多面的な利益をもたらします。短期的な収益増加だけでなく、持続可能な成長と企業価値の長期的な向上を実現します。

企業の生産性向上

エンゲージメントの高い従業員は、より効率的に仕事を行い、高い成果を上げる傾向があります。これにより、チーム全体の生産性が飛躍的に高まり、企業全体の業績向上につながります。

顧客満足度の向上

エンゲージメントの向上により、従業員の自発的なアイデア提案や問題解決能力が高まります。これにより、市場の変化に迅速に対応できるため、顧客満足度の向上にもつながり、ブランド価値の向上にも貢献します。

離職率の低減

従業員のエンゲージメントが向上することで、仕事に対する愛着や帰属意識が高まり、離職率が大幅に低減します。優秀な人材を長期間確保できることで、社内の知識やスキルの蓄積が進み、組織全体の競争力向上にもつながります。

エンゲージメントを高める3つの具体的な施策

エンゲージメントを高める具体的な施策には様々なものがありますが、ここでは比較的取り組みやすい3つの方法を紹介します。これらは、大きな投資や組織の大幅な変更を必要とせず、多くの企業で実践可能な施策です。

ビジョンの明確化と共有

企業の長期的な目標や方向性を明確に定義し、全従業員と共有します。ビジョンステートメント【3】を作成し、社内の様々な場所に掲示したり、定期的な全体会議で経営陣がビジョンについて語る機会を設けます。また、各部署や個人の目標をこのビジョンと紐付けることで、従業員一人ひとりが自分の役割の重要性を理解し、モチベーションを高めることができます。

1on1ミーティングの定期開催

週1回または隔週で30分から1時間程度、上司と部下が個別に面談を行います。この面談では、業務の進捗確認だけでなく、キャリア目標の設定や見直し、個人的な悩みの相談なども行います。対面またはビデオ会議ツールを使用し、面談内容を簡潔に記録してフォローアップに活用します。この取り組みにより、上司と部下の信頼関係が強化され、従業員の声が経営に反映されやすくなります。

フレキシブルな働き方の導入

コアタイムなしのフルフレックス制を導入し、出勤時間を完全に従業員の裁量に委ねます。また、週の勤務日数の60%までリモートワークを可能にするなど、柔軟な勤務形態を整備します。主要駅周辺にサテライトオフィス【4】を設置したり、年に1週間のワーケーション【5】を認めたりすることで、従業員の多様な働き方をサポートします。これにより、従業員の生産性と創造性の向上につながります。

エンゲージメント向上に取り組む企業の実践事例 

ここでは、エンゲージメント向上に積極的に取り組む企業の事例を紹介します。これらの企業は、独自の施策を通じて従業員のモチベーションを高め、生産性の向上や組織の活性化を実現しています。

企業理念とバリューの浸透で急成長〜メルカリ株式会社

メルカリは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」という理念を掲げ、「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」というバリューを日常的に活用しています。これらの言葉を業務用チャットのスタンプやTシャツにデザインし、従業員の日常に溶け込ませました。この戦略的な取り組みにより、従業員のエンゲージメントが向上し、創業からわずか5年で日本最大のフリマアプリへと成長を遂げました。メルカリの具体的な施策が、明確な理念とバリューの浸透が、従業員のエンゲージメント向上と企業の急成長に繋がっています。

参考リンク:あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる||メルカリ

1on1ミーティングによるエンゲージメント向上〜株式会社LIXIL

LIXILは、従業員エンゲージメント向上を目指し、従業員エクスペリエンス【6】に焦点を当てています。全従業員を対象とした年次意識調査「LIXIL Voice」では、2024年の回答率89.4%、エンゲージメントに関する肯定的回答は71%に達しています。この調査で30代前半におけるエンゲージメントスコア【7】の低下と上司とのコミュニケーション課題を特定し、対策として、1on1ミーティングの導入や30代前半の従業員向けにキャリア形成とコミュニケーションに関する特別研修を実施しました。その結果、30代従業員の意識調査結果が大幅に改善し、エンゲージメントスコアを含むすべての指標で上昇が見られています。

参考リンク:働きがいのある職場|LIXIL

働く時間や場所を自由に選べる働き方〜ユニリーバ・ジャパン

ユニリーバ・ジャパンは、2016年7月に「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」と呼ばれる革新的な働き方を導入しました。WAAは、従業員が働く場所や時間を自由に選択できる革新的な制度です。導入後の社員アンケートでは、75%が生産性向上を実感し、33%が幸福度の向上を報告しています。結果的に、仕事へのモチベーションも向上し、商品開発や業務改善におけるイノベーションが加速しています。フレキシブルな働き方がエンゲージメント向上に大きな効果をもたらすことを示しています。

参考リンク:ワーク・イン・ライフ|ユニリーバ・ジャパン

エンゲージメントの測定と改善  

エンゲージメントを向上させるためには、単に施策を実施するだけでなく、定期的な測定と継続的な改善が極めて重要です。これにより、施策の効果を客観的に評価し、従業員のニーズや組織の課題をリアルタイムで把握することができます。

定期的な調査の実施

四半期ごとのエンゲージメントサーベイ【8】と毎月のパルスサーベイ【9】を組み合わせることで、組織全体のエンゲージメントを効果的に向上させることができます。四半期調査では多角的な視点から長期的なトレンドを分析し、パルスサーベイでは従業員の短期的な変化をリアルタイムで把握します。この二つの調査方法を活用することで、迅速な問題対応と継続的な改善が可能となり、従業員との信頼関係も強化されます。

データ分析と改善サイクル

これらの調査結果を統合的に分析し、エンゲージメントスコアの推移を確認します。そのなかで、エンゲージメントに影響を与える要因を特定します。分析結果に基づいて、具体的な改善策を立案、実行します。そして、次回の調査で効果を測定し、必要に応じて施策を調整するというPDCA【10】サイクルを確立します。

オープンなコミュニケーションの促進

調査結果や改善策について、経営陣から従業員へ定期的にフィードバックを行います。この透明性のある姿勢は、組織全体の信頼関係を高め、従業員のエンゲージメントを高めます。また、従業員からの意見や提案を積極的に募り、それらを実際の施策に反映させることで、双方向のコミュニケーションを促進します。このような開かれた企業文化の育成が、従業員の主体性を引き出し、結果としてエンゲージメントの向上につながります。

経営者・人事担当者のための「エンゲージメント」Q&A

Q1:エンゲージメントと従業員満足度の違いとは?

A: 従業員満足度が「会社や仕事に対する満足度」を表すのに対し、エンゲージメン
トは「会社や仕事への積極的な関与や貢献意欲」を表します。従業員が会社や待遇
に満足していても、必ずしも組織の目標達成に向けて積極的に貢献したいと思って
いるとは限りません。このような状況は、組織にとって潜在的な課題となる可能性
があります。従業員の満足度だけでなく、エンゲージメントも高める取り組みが重
要となります。

Q2: エンゲージメントの向上で最初に着手すべき点は何ですか?

A: まずは現状把握から始めることが重要です。定期的なアンケート調査や1on1ミーティングなどを通じて、現在の従業員のエンゲージメント状況を測定し、課題を特定することから始めるのが効果的です。その後、特定された課題に対して具体的な改善策を立案し、実行していくことが望ましいでしょう。

Q3: エンゲージメント向上の取り組みにおいて経営者の役割は?

A: 経営者はエンゲージメント向上において中心的な役割を担います。まず、エンゲージメント向上の意義と目的を明確に伝え、組織全体の理解を促進することが求められます。次に、双方向のコミュニケーションを促進し、従業員の声に真摯に耳を傾けることが大切です。必要なリソースを確保し、長期的な視点で取り組みを支援することも経営者の重要な責務といえるでしょう。

まとめ 

エンゲージメントは、単なる従業員満足度の向上を超えた、企業と従業員の強い絆を表す概念です。高いエンゲージメントは、生産性の向上、イノベーションの促進、顧客満足度の向上など、多くのメリットをもたらします。

これからの時代、従業員と企業の関係性がますます重要になっていく中で、エンゲージメントは企業経営の中心的なテーマのひとつとなるでしょう。経営者や人事担当者は、エンゲージメントの本質を理解し、その向上に継続的に取り組んでいくことが求められます。

関連用語

【1】人的資本経営(リスキリング用語集①

従業員を単なるコストではなく、企業の成長と価値創造の源泉となる重要な資産として捉え、戦略的に活用する経営手法。

【2】人材版伊藤レポート(リスキリング用語集②

経済産業省が発表した、企業が人的資本を活用し、持続的成長を図るための指針。スキル開発や多様な人材の活用を通じて、競争力強化を目指すことを提言している。

【3】ビジョンステートメント(Vision Statement)

組織の長期的な目標や理想の姿を簡潔に表現した文章。従業員の方向性を示し、意思決定の指針となる。

【4】サテライトオフィス(Satellite Office)

企業の本社から離れた場所に設置されたオフィス。従業員の通勤時間短縮や地方での雇用創出に貢献する。

【5】ワーケーション

仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた働き方。リモートワークを活用し、観光地などで仕事をしながら休暇を楽しむこと。

【6】従業員エクスペリエンス

従業員が組織で経験する全てのこと。採用から退職までの全過程における従業員の体験や感情を指す。

【7】エンゲージメントスコア(Engagement Score)

従業員の仕事や組織に対する熱意、コミットメント、関与度を表す「エンゲージメント」のレベルを数値化したもの。組織の健全性や改善点を把握できる。

【8】エンゲージメントサーベイ(Engagement Survey)

従業員の組織に対する帰属意識や仕事への熱意を測定するアンケート調査。組織の改善点を把握するために実施される。

【9】パルスサーベイ(Pulse Survey)

短期間で頻繁に実施する簡易的な従業員調査。組織の状態をリアルタイムで把握し、迅速な対応を可能にする。

【10】PDCA

Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)の頭文字を取った業務改善サイクル。継続的な改善を促進する管理手法。