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人材ポートフォリオ じんざいぽーとふぉりお

公開日:2025.02.12
人材ポートフォリオ

近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。

本用語集では「人材ポートフォリオ」に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。

「人材ポートフォリオ」をひとことでいうと? 

人材ポートフォリオとは、企業や組織において、「どの部署に、どのようなスキルや経験を持つ人材がどれだけいるか」を可視化するものです。

人材ポートフォリオ の基本概念 

人材ポートフォリオの考え方は、金融投資における資産配分の概念を人材管理に応用したものです。これは、企業の人材が持つ知識やスキルを体系的に整理し、戦略的な活用を目指して「見える化」を行うフレームワークです。

具体的には、従業員を役割、スキル、雇用形態などの観点で分類し、最適な人材配置を実現する戦略的な仕組みです。これにより、組織全体のスキル分布を正確に把握でき、長期的な人材育成計画やリスク管理に活用できます。

人材ポートフォリオが注目されている背景

近年、人材ポートフォリオが注目される背景には、以下のような要因があります。

人的資本経営の重要性と伊藤レポート2.0

人的資本経営【1】の重要性が高まり、企業の人材マネジメントは大きな転換期を迎えています。経済産業省が2022年に発表した人材版伊藤レポート2.0【2】は、人的資本を「企業価値の源泉」と位置づけ、その重要性を強調しています。さらに、人的資本情報の開示要請が強まるなか、企業には人材マネジメントの透明性向上が求められています。

参考リンク:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0|経済産業省

多様化する雇用形態

働き方改革の加速化は、企業の人材活用方法を根本から変えつつあります。リモートワークやジョブ型雇用【3】など、新しい働き方が一般化する中で、企業は従来の雇用形態にとらわれない柔軟な人材活用を求められています。正社員、契約社員、フリーランスなど、多様な雇用形態を効果的に組み合わせることが重要となっています。

デジタルトランスフォーメーションの影響

DX(デジタルトランスフォーメーション)【4】の波は、企業の人材戦略にも大きな影響を与えています。デジタル技術の急速な進展により、デジタル人材の確保・育成が喫緊の経営課題となっています。同時に、既存の従業員に対するデジタルスキルの習得支援や、新しい技術に対応するためのリスキリング【5】アップスキリング【6】の必要性も高まっています。

人材ポートフォリオの評価軸 

人材ポートフォリオは、組織の人材を効果的に分類・活用するために、様々な評価軸を用いて分析します。以下に示す軸は一般的な例ですが、各企業の特性や目的に応じて、独自の評価軸を設定することが重要です。

「戦略的重要性」×「スキルの希少性」

軸1. 戦略的重要性

組織にとってその人材がどれだけ重要か、競争優位性にどの程度貢献するかを示す軸

軸2. スキルの希少性

その人材が持つスキルや経験が、どの程度代替可能か、希少性を示す軸

各要素の特徴:

  • コア人材

戦略的重要性が高く、代替が困難な人材。企業の競争力の源泉となる高度なスキルや知識を持ち、組織の中核を担う。

  • 戦略的人材

戦略的重要性は高いが、ある程度代替可能な人材。組織の成長に重要な役割を果たし、将来のコア人材となる可能性を秘めている。

  • 専門業務人材

特定の専門性を持つが、外部からの調達も可能な人材。プロジェクトベースでの活用や、特定業務での即戦力として期待される。

  • 定型業務人材

定型的な業務を担当し、比較的代替が容易な人材。組織の日常業務を支える役割を担う。業務の標準化やマニュアル化が可能。

「チーム性」×「創造性」

軸1. チーム性

組織内での協働やコミュニケーション能力、チームへの貢献度を示す軸

軸2. 創造性

新しいアイデアや解決策を生み出す能力、イノベーションへの貢献度を示す軸

各要素の特徴:

  • マネジメント型

組織全体のビジョンを理解し、チームを効果的に導くことができる人材。
戦略的思考と実行力を兼ね備え、組織の成長を牽引する。

  • クリエイティブ型

新しいアイデアや価値を生み出すことができる人材。
革新的な発想と問題解決能力を活かし、組織に変革をもたらす。

  • エキスパート型

 特定分野で高度な専門知識やスキルを持つ人材。
専門性を活かして、組織の技術力や競争力の向上に貢献する。

  • オペレーション型

 正確かつ効率的に業務を遂行できる人材。
確実な実務処理能力を持ち、組織の安定的な運営を支える。

人材ポートフォリオの作成ステップ  

人材ポートフォリオの作成は、以下の4つのステップで進めていきます。それぞれの段階で具体的なアクションを取ることで、効果的な人材管理が可能になります。

ステップ1:データの収集

従業員一人ひとりの基本情報を様々な角度から収集し、総合的な情報収集を行います。

  • 評価システムから:過去3年分の業績評価データを収集
  • スキル管理システムから:資格情報、研修受講歴を取得
  • 上長へのヒアリング:定性的な評価や将来性の見込みを収集

ステップ2:データの分類と整理

収集した情報を体系的に整理し、分析しやすい形に構造化します。雇用形態、役割、スキルレベルなど、多角的な視点でデータを分類することで、組織全体の人材状況を把握します。

  • エクセルなどの表計算ソフトやタレントマネジメントシステム【7】を使用してデータベースを作成
  • 職種別、部門別、スキルレベル別にクロス集計表を作成
  • 経験年数とスキルレベルの対応表を作成
  • 将来必要となるスキルと現状のギャップを分析

ステップ3:可視化と分析

整理されたデータを基に、組織全体のスキルマップ【8】を作成します。これにより、各部署の人材バランスや、個人・組織レベルでのスキルギャップを明確に把握することができます。

  • レーダーチャート:個人・部門ごとの能力分布を表示
  • ヒートマップ:組織全体のスキル分布状況を可視化
  • ギャップ分析:現状と理想状態の差異を数値化
  • 将来予測:3年後の組織スキル構成をシミュレーション

ステップ4: データの活用と改善

作成したポートフォリオを人材育成や配置の基礎資料として活用します。定期的な更新と見直しを行うことで、組織の戦略に合わせた効果的な人材マネジメントを実現します。

  • 四半期ごとの更新:新しい評価データや資格取得情報を反映
  • 育成計画への活用:個人別の研修計画を策定
  • 採用計画への反映:不足スキルを補うための採用要件を設定
  • 定期的なレビュー:経営陣との共有と戦略の見直し

経営者・人事担当者のための「人材ポートフォリオ」Q&A

Q1:人材ポートフォリオの分類は固定的なものですか?

A: いいえ。従業員のスキル向上や組織ニーズの変化に応じて、カテゴリー間の移動は可能です。例えば、実務担当者が新しいスキルを習得してマネジメント人材に成長することもあります。また、組織の戦略変更に伴い、特定の専門性を持つ人材の重要度が変化することもあります。そのため、定期的な評価と見直しを行い、各従業員の成長に合わせて適切なカテゴリーに再配置することが重要です。

Q2:リモートワーク時代の人材ポートフォリオはどう変化していますか?

A: リモートワークの普及に伴い、人材ポートフォリオの評価基準は大きく変化しています。特にデジタルスキルの重要性が著しく増加し、オンラインツールの活用能力やデジタルリテラシーが必須となっています。また、物理的な監督が難しい環境下での自己管理能力、つまりタイムマネジメントや作業の優先順位付けなども重要な評価要素となっています。これらの能力は、今後、生産性と成果を左右する重要な要素として認識されています。

Q3:従業員のソフトスキルや人間性はどのように評価されますか?

A: 人材ポートフォリオではハードスキルだけでなく、コミュニケーション能力、チームワーク、リーダーシップなどのソフトスキルも重要な評価要素として考慮されます。これらの要素は、職場での円滑な業務遂行や組織の文化適合性を判断する上で重要な指標となります。ただし、これらの評価は客観的な基準に基づいて行われる必要があり、定期的な360度評価【9】などの手法を用いることが推奨されています。

まとめ

人材ポートフォリオは、組織の未来を創造する戦略的プラットフォームです。単なる人材管理ツールを超えて、従業員一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、組織全体の持続的な成長を実現する強力な推進力となります。人材ポートフォリオを競争力向上に欠かせないツールとして効果的に活用することで、適材適所の人材配置やスキルギャップの解消が可能となります。

さらに、AI・デジタル技術の進化や働き方改革の加速により、従来の人材管理手法は大きな転換期を迎えています。今後は、リモートワークやジョブ型雇用の普及、グローバル人材の活用など、より複雑化する人材環境に対応するため、データ分析やAIを活用した高度な人材ポートフォリオ管理が求められるでしょう。

関連用語

【1】人的資本経営(リスキリング用語集①

従業員を単なるコストではなく、企業の成長と価値創造の源泉となる重要な資産として捉え、戦略的に活用する経営手法。

【2】人材版伊藤レポート2.0(リスキリング用語集⑬

経済産業省が発表した人材版伊藤レポートの改訂版。人的資本経営に不可欠なKPIと成功事例を含む実用性を示したガイドライン。

【3】ジョブ型雇用(リスキング用語集⑤

個人の職務や役割を明確に定義し、その職務に適した人材を採用・配置する雇用形態。

【4】DX(デジタルトランスフォーメーション)

デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織文化を根本的に変革し、顧客価値や競争力を高めるプロセス。単なるIT化ではなく、デジタル技術を核とした経営戦略の変革を意味する。

【5】リスキリング(Reskilling)

従業員に新しいスキル、能力を習得させることで、職場の変化や新たな業務にも対応できるようにする取り組み。

【6】アップスキリング(Upskilling)

現在の職務や役割でより高度な能力を身につけるため、既存のスキルを向上させたり、新しいスキルを習得したりすること。

【7】タレントマネジメントシステム(Talent Management System)

 従業員の能力や潜在性を最大限に引き出すための戦略的な人材管理システム。採用、育成、評価、配置など、人材に関する包括的な管理を行う。

【8】スキルマップ(Skills Map)

現在の組織能力と将来必要となるスキルのギャップを特定するために、組織全体のスキル状況を可視化したもの。

【9】360度評価

従業員の業績や行動を、上司、同僚、部下、顧客など多角的な視点から評価する手法。総合的な評価が可能で、自己認識と他者評価のギャップを明確にする。