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動的組織:Dynamic Organization どうてきそしき

公開日:2025.02.18
動的組織:Dynamic Organization

近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。

本用語集では「動的組織」に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。

「動的組織」をひとことでいうと?

動的組織(Dynamic Organization)は、急速に変化するビジネス環境に適応するために、柔軟に形を変え、素早く対応できる組織形態を指します。

動的組織 の基本概念 

現代のビジネス環境は、技術革新や市場の変化が加速し、従来の静的な組織構造では対応しきれない場面が増えています。こうした背景から、「動的組織(Dynamic Organization)」という新しい組織モデルが注目されています。従来の階層型組織とは異なり、動的組織は、状況やニーズに応じて組織構造と意思決定プロセスを柔軟に変化させることができます。

動的組織が注目されている背景

現代のビジネス環境において、動的組織が注目を集めている背景には、社会とテクノロジーの急速な変化があります。AIやデジタル技術の発展により、従来の組織構造では対応が困難な変化が増加しており、より柔軟な組織運営が求められています。また、VUCA時代【1】と呼ばれる予測困難な時代において、環境変化に迅速に対応できる組織の重要性が高まっています。

さらに、グローバル化の進展や消費者ニーズの多様化により、従来の長期計画型の経営では十分な柔軟性を確保できず、競争力の維持が困難になってきています。リモートワークやフリーランスの増加など、働き方の多様化も進んでおり、従来の職場ベースの管理手法では対応が難しくなっています。これらの社会的変化を背景に、従来の固定的な組織構造から、より柔軟で適応力の高い動的組織への転換が必要不可欠となっています。

動的組織の主な特徴

動的組織の最も重要な特徴は、環境変化への適応力です。市場ニーズの変化や新しい技術の登場に応じて、組織構造を柔軟に再編成できます。また、従業員の役割も固定的ではなく、プロジェクトやニーズに応じて変化します。

1.フラットな組織構造

動的組織では、従来の縦割り型の階層構造を最小限に抑え、水平的なコミュニケーションを重視します。これにより、情報の流れが円滑になり、意思決定のスピードが向上します。

2. チーム編成の柔軟性

プロジェクトやタスクに応じて、適切なスキルを持つメンバーを柔軟にチーム編成します。固定的な部署の枠を超えて、必要な人材を必要な場所に配置することができます。

3. 自律的な意思決定

現場レベルでの意思決定権限を持たせることで、問題への迅速な対応が可能になります。これにより、組織全体の俊敏性が向上し、市場変化への対応力が強化されます。

動的組織と静的(従来型)組織のちがい

動的組織と静的組織の主な特徴を、多角的な視点から比較しました。
動的組織は、柔軟な構造と迅速な意思決定プロセスにより、市場の変化や新しい技術の導入に素早く適応することができます。

 

項目 静的(従来型)組織 動的組織
組織構造 ピラミッド型 フラット型
意思決定 トップダウン方式 現場での迅速な判断
役割 固定的 状況に応じて変化
コミュニケーション 一方向、階層的 双方向、オープン
チーム編成 部署固定型 プロジェクトベース
評価制度 年功序列 成果
変革への対応 慎重、段階的 迅速、適応的
イノベーション 既存プロセス重視 積極的な推進

 

動的組織の成果と研究データ  

グローバルな人事・組織コンサルティング企業であるJosh Bersin Companyの研究によると、動的組織は以下のような成果を上げています。

  • 財務目標を達成する可能性が3倍高い
  • 多様性と包括性が高まる可能性が21倍高い
  • 効果的にイノベーションを起こす可能性が7倍高い
  • 生産性が向上する可能性が20倍高い

これらのデータは、動的組織が財務、多様性、イノベーション、生産性の面で著しい成果を上げており、現代のビジネス環境において効果的な組織モデルであることを明確に示しています。特に、従来の階層型組織と比較して、より高いパフォーマンスを実現できる可能性が統計的に実証されています。

参考リンク:The Definitive Guide to BuiDefinitive Guide to Dynamic Organization – JOSH BERSINlding a Dynamic Organization

海外企業の「動的組織」実践事例

海外では、特にテクノロジー企業を中心に動的組織の導入が積極的に進められており、市場の変化への迅速な対応やイノベーション創出において、優れた成果を上げています。

Google 〜プロジェクトベースの柔軟な組織構造

Googleの20%ルールは、従業員が通常業務以外のプロジェクトに時間を使うことを認める制度です。この制度の実践方法として、部署横断的なプロジェクトチームの編成、従業員の自主的なイノベーション活動の支援、そして業務時間の一定割合を新規アイデアの創出に充てることが挙げられます。この取り組みは、組織の柔軟性を高め、イノベーションを促進する効果的な手法として評価されています。

参考リンク:Work @ Google 20%|Google

Microsoft 〜場所や時間にとらわれないハイブリッドワークモデル

マイクロソフトは、ハイブリッドワークモデル【2】の先駆者として知られています。同社は2020年以降、「新しい働き方」を通じて、従業員に柔軟な勤務形態を提供しています。オフィスワークとリモートワークを効果的に組み合わせることで、生産性と従業員満足度の向上を実現しました。特に注目すべきは、Microsoft Teamsなどのデジタルツールを活用した効率的なコミュニケーション基盤の構築です。この取り組みにより、グローバルチームの連携が強化され、イノベーションの促進にも成功しています。

参考リンク:リモート ワークから、ハイブリッド ワークへ|Microsoft

Amazon 〜小規模チームによる効率的な意思決定システム

Amazonの「2つのピザチーム」は、チームの規模を2枚のピザで食事ができる人数(10名未満)に制限することで、迅速な意思決定と効率的な行動を実現しています。具体的な実践方法として、大規模プロジェクトを小規模チームに分割し、チーム単位での権限委譲と責任の明確化を図り、迅速な意思決定プロセスを確立しています。この取り組みにより、イノベーションの促進とビジネススピードの向上を実現しています。

参考リンク: 2 つのピザチームによるイノベーションとスピードの促進|Amazon

日本企業への「動的組織」適用におけるポイント 

海外企業の事例を参考にする際は、文化的な違いや組織の特性を十分に考慮する必要があります。以下のポイントは、日本企業が動的組織を導入する際の重要な検討事項となります。

1. 段階的な導入

急激な変革ではなく、小規模なパイロットプロジェクト【3】から始めることで、組織の受容性を高めることができます。

2. 文化的な配慮

日本の企業文化の良さを活かしながら、新しい要素を取り入れることが重要です。例えば、チームワークの重視や長期的な人材育成といった日本の強みは維持しつつ、意思決定の迅速化や権限委譲を進めていきます。

3. コミュニケーションの重要性

変革の目的と方向性を明確に伝え、従業員の理解と支持を得ることが成功の鍵となります。定期的なフィードバックと対話の機会を設けることで、スムーズな移行が可能になります。

経営者・人事担当者のための「動的組織」Q&A

Q1:動的組織における人材育成はどのように行うべきでしょうか?

人材育成の鍵は、多様なプロジェクトへの参加機会を通じた実践的なスキル開発にあります。これには、異なる分野のプロジェクトでの経験蓄積や、経験豊富なメンバーからのメンタリングが含まれます。また、従業員が自身のペースで学習できるeラーニングシステムの提供や、定期的なワークショップの開催も重要です。これらの取り組みに加えて、体系的な研修プログラムを整備することで、より効果的な人材育成が実現できます。

Q2:動的組織の実践において日本企業特有の課題はありますか?

はい、終身雇用や年功序列など、日本の伝統的な企業文化からの転換が課題となります。ジョブ型雇用【4】への移行なども検討が必要です。まず特定の部門でパイロットプロジェクトを実施し、その後、従来の組織構造と動的要素を組み合わせたハイブリッドモデルを採用する段階的なアプローチが効果的です。日本の企業文化の強みを活かしながら、新しい組織モデルを構築していく視点も重要となります。

Q3:動的組織における採用基準はどのように変わりますか?

動的組織における採用基準は、特定の技術的スキルだけでなく、適応力、チームワーク力、学習意欲などの基本的な素質を重視します。プロジェクトごとに柔軟なチーム編成が必要となるため、自律的な意思決定能力と継続的な学習姿勢が求められます。市場の変化や新技術に柔軟に対応できる適応力も重要な要素となり、これらの資質を総合的に評価することで、動的組織に適した人材を見出すことができます。

まとめ

動的組織は海外企業で先駆的に実践され、顕著な成果を上げています。これらの成功事例は、動的組織への移行における重要な示唆を提供しています。

しかし、これらの事例を単に模倣するのではなく、日本特有の文化や組織風土に適した形での導入が必要です。この組織変革を成功に導くには、経営陣の強いコミットメントと明確なビジョンが不可欠となります。VUCA時代の到来や技術革新の加速により、市場環境は絶えず変化しています。このような環境下で持続的な成長を実現するには、組織の柔軟性と迅速な意思決定力が重要です。従来のトップダウン型の意思決定から脱却し、従業員一人ひとりが主体性を発揮できる環境づくりが成功への鍵となります。

関連用語

【1】VUCA時代

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で、不確実で予測困難な時代を指す。

【2】ハイブリッドワークモデル

オフィス勤務とリモート勤務の従業員を組み合わせた柔軟な働き方のモデル。

【3】パイロットプロジェクト

本格的な展開の前に行う試験的なプロジェクト。実現可能性や効果を検証する。

【4】ジョブ型雇用(リスキング用語集⑤

個人の職務や役割を明確に定義し、その職務に適した人材を採用・配置する雇用形態。