記事一覧ページに戻る

SWP(戦略的要員計画) えすだぶりゅぴー

公開日:2025.02.25
SWP(戦略的要員計画)

近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。

本用語集では「SWP」に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。

「SWP」をひとことでいうと?

SWP(戦略的要員計画:Strategic Workforce Planning)は、組織の事業戦略を実現するために必要な人材の質と量を計画的に確保・育成していく取り組みです。

※「SWP:Strategic Workforce Planning」の日本語訳はまだ定まっておらず「戦略的要員計画」「戦略的労働力計画」「戦略的人材計画」など、さまざまな表現があります。最近では「戦略的」を省略して「ワークフォース・プランニング」や「要員計画」と呼ばれることも増えています。本稿では「SWP」という名称で統一します。

SWP の基本概念 

SWPとは、企業の中長期的なビジネス目標を達成するために必要な人材やスキル、リソースを計画的に管理・調整するプロセスです。簡単に言えば、「どのタイミングで、どの部門に、どれだけの人材が必要か」を予測し、そのギャップを埋める戦略を立てることです。

このプロセスは単なる人員配置の計画ではなく、企業戦略の一部として、組織全体の生産性を最大化しながら、変化する市場環境に適応するための基盤を作ります。

SWPが注目されている背景

1960年代以降、グローバルに発展してきたSWPですが、特に日本では近年、その重要性が改めて注目を集めています。

第一に、AIや自動化技術の進化に伴う技術革新とデジタル化により、必要とされるスキルが大きく変化し、特にデジタル分野での専門知識を持つ人材の需要が急増しています。具体例として、クラウド技術の普及によりクラウドエンジニアの不足が深刻な課題となっています。

第二に、日本特有の課題として労働力不足と高齢化があります。少子高齢化の進行により若年層の労働力が減少し、効率的な人材活用が不可欠となっています。また、地域による人口減少の差異を考慮した柔軟な戦略立案も必要とされています。

第三に、働き方改革の進展により、テレワークや柔軟な働き方が一般化し、従来とは異なる人材配置や管理方法が求められています。さらに、フリーランスや契約社員など、多様な雇用形態を計画に組み込むことも重要になってきています。

SWPの重要性  

SWPは、組織の持続的な成長と競争力を確保するための重要なツールとして認識されています。単なる人員の配置計画を超えて、経営戦略と直接連携した包括的なアプローチとして発展してきました。その重要性が高まっている理由として、以下が挙げられます。

経営戦略との密接な連携

組織の中長期的な経営目標や事業戦略と直接リンクした形で人材計画を立案します。これにより、ビジネスの方向性と人材戦略の一貫性が保たれます。

データドリブンなアプローチ

人材分析(People Analytics)【1】を活用し、科学的な根拠に基づいた意思決定を行います。これにより、感覚的な判断ではなく、客観的なデータに基づいたデータドリブン【2】の戦略立案が可能となります。

長期的視点での人材投資

短期的な人員の需給調整だけでなく、将来必要となるスキルの育成や組織能力の向上を見据えた投資計画として機能します。

 

このように、SWPは日本企業においても人材管理を戦略的な経営課題として捉え、少子高齢化や働き方改革といった日本特有の課題に対応しながら、組織の持続的な競争優位性を確保するための重要なツールとして位置づけられています。

SWPの実行プロセス

SWPでは、必要な人材の質と量を要員計画で明確に定め、その計画を実現するための人材活用施策を体系的に実施します。

需要予測

将来必要となる人材の数とスキルを予測する段階です。新製品開発などの具体的なプロジェクトに基づいて必要な人材を見積もり、市場動向や技術トレンドも考慮に入れて正確な需要を把握します。

供給分析

現在の組織内の人材状況を詳細に分析します。現在の従業員のスキルレベルや配置状況を確認し、従業員のキャリア目標や退職予定なども考慮して、将来の人材供給を予測します。

ギャップ分析

需要予測と供給分析の結果を比較し、スキルや人数の不足または過剰を特定します。この分析により、特定のスキルを持つ人材の不足や、人員が過剰な部門での再配置の必要性などが明らかになります。

アクション計画

特定されたギャップを埋めるための具体的な対策を立案します。タレントマネジメント【3】の一環として、業績管理・人材育成や報酬マネジメントと連携した計画を策定し、社内での研修実施による能力開発、外部からの採用、外部パートナーとの協力関係の構築などを検討します。

計画の実行と支援体制

策定した計画を実行に移します。この活動を支えるのが、組織全体のエンゲージメント【4】を高めていくための組織開発施策、HRテクノロジーや、人事部門機能の強化です。

SWP成功事例:Netflixの戦略的要員計画 

ビジネス転換期における戦略的人材戦略〜Netflix

Netflixは、DVDの郵送レンタルサービスからストリーミングサービスへの転換期において、特に優れた戦略的要員計画を実施しました。1998年にDVD郵送レンタルビジネスとして創業したNetflixは、2007年にストリーミングサービスを開始する際、大胆な人材戦略の転換を行いました。

段階的、先見的な人材投資へ
DVD事業からストリーミング事業への移行に合わせて、物流管理人材からIT技術者へと人材構成を段階的に変更。2007年の時点で、将来のストリーミング技術の普及を見据え、クラウドエンジニアやコンテンツ配信の専門家の採用を開始。市場に先駆けた人材確保を実現しました。

シナリオプランニングの活用
複数の市場シナリオを想定し、各シナリオに応じた必要人材を予測。特にストリーミング技術の進化に伴う技術者需要を正確に見積もっています。

グローバル人材戦略
オリジナルコンテンツ制作の拡大に伴い、世界中からクリエイティブ人材とテクノロジー人材を獲得。AI・機械学習などの最新技術に対応するため、既存社員の継続的な能力開発に投資。技術革新に即応できる組織体制を維持しています。

 

この戦略的アプローチにより、Netflixは事業構造の大転換を成功させ、さらには急速な事業拡大に必要な人材を適切なタイミングで確保し、グローバルなストリーミング市場でのリーダーシップポジションを確立することに成功しました。

 

参考リンク:Strategic Workforce Planning 101: Framework & Process

SWPを成功に導くポイント

SWPを効果的に実施するためには、以下のポイントを意識しながら、組織の特性や規模に合わせて最適なアプローチを選択することが重要です。また、実行段階では従業員との丁寧なコミュニケーションを通じて、変更の必要性と目的を共有することが成功への鍵となります。

データに基づく意思決定

人材データの収集と分析を徹底し、客観的な指標に基づいて計画を立案します。

経営戦略との整合性

事業目標や経営ビジョンと人材計画を密接に連携させ、一貫性のある戦略を展開します。

柔軟な対応力

市場環境の変化や予期せぬ事態に対して、計画を柔軟に修正できる体制を整えます。

部門間の連携強化

人事部門だけでなく、各事業部門との密接なコミュニケーションを通じて、組織全体の最適化を図ります。

継続的なモニタリング

KPI【5】を設定し、定期的に進捗を確認して必要な調整を行います。

人材育成の重視

単なる人員配置だけでなく、従業員のスキル開発やキャリアパス【6】の設計も含めた総合的な計画を立てます。

経営者・人事担当者のための「SWP」Q&A 

Q1:中小企業でも効果的なSWPはできますか?

A: はい、可能です。むしろ中小企業だからこそ、限られた経営資源を最大限に活用するために計画的な人材戦略が重要です。基本的な表計算ソフトなどのツールを使って現状分析から始め、段階的に取り組むことができます。まずは、今後3年程度の事業計画に基づいて必要な人材を予測し、既存社員の育成計画や採用計画を立てることから始めるのがおすすめです。

Q2:人材需要の予測はどのように行うべきですか?

A: 人材需要の予測には、市場動向、技術トレンド、過去のプロジェクトデータ、競合他社の動向などを総合的に分析することが重要です。新技術の導入計画や事業拡大の予定を考慮しながら、各部門の将来的なニーズを予測します。例えば「新製品開発に必要なエンジニアの人数」や「デジタルマーケティング部門の増員数」といった具体的な数値目標を設定し、四半期ごとの見直しで精度を高めていきます。

Q3:データ分析の基盤が整っていない場合はどうすればよいですか?

A: 過去のプロジェクトデータや市場データを活用し、仮説ベースで計画を立てることができます。まずは既存の人事データや業界動向を分析し、具体的な数値目標を設定します。その上で、部門ごとの採用・育成計画を立案し、定期的な見直しを行います。必要に応じて人材コンサルタントの知見も活用すると、より精度の高い計画が可能です。

まとめ

SWPは、企業の成長を支える重要なプロセスです。特に変化の激しい現代では、計画的な人材管理が競争力を高める鍵となります。中小企業でも小さなステップから始めることで、大きな成果を上げることが可能です。まずは現状の分析から取り組み、未来を見据えた戦略を立ててみましょう。さらに、定期的な見直しと改善を行うことで、変化に柔軟に対応できるプランニングを実現できます。

関連用語

【1】人材分析(People Analytics)

従業員に関するデータを収集・分析し、採用・育成・配置などの人事施策の意思決定に活用する手法。科学的なアプローチで人材マネジメントの効果を高める。

【2】データドリブン(Data-Driven)

データに基づいて意思決定や戦略立案を行うアプローチ。感覚や経験だけでなく、客観的なデータ分析を重視して判断を下すこと。

【3】タレントマネジメント(Talent Management)

従業員の能力や潜在性を最大限に引き出すための戦略的な人材管理・育成プロセスを包括的に扱うマネジメント手法。

【4】エンゲージメント (Engagement)(リスキリング用語集⑧

従業員の仕事や組織に対する熱意、関与度を表す概念。生産性向上や離職率低下につながり、組織の成長に重要な要素。

【5】KPI (Key Performance Indicator)

組織や個人の業績を評価するための主要な指標。目標達成度や効率性を測定し、戦略的な意思決定や改善活動の基準となる。

【6】キャリアパス(Career Path)

従業員の職業人生における成長の道筋。個人の能力開発や目標達成を支援するとともに組織の人材育成戦略にも役割を果たす。