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キャリア開発 きゃりあかいはつ

公開日:2025.03.04
キャリア開発

近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。

本用語集では「キャリア開発」に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。

「キャリア開発」をひとことでいうと? 

キャリア開発は、従業員が自らのキャリア目標を設定し、それを達成するために必要なスキルや知識を習得するプロセスです。企業はこのプロセスを支援し、従業員の成長を促進します。

キャリア開発 の基本概念  

キャリア開発は、英語では「Career Development(キャリアディベロップメント)」と呼ばれ、個人の職業人生における成長と発展を体系的に支援することを意味します。特に近年では、DX(デジタルトランスフォーメーション)【1】の進展に伴い、テクニカルスキルとヒューマンスキルの両方を継続的に向上させることが重要視されています。

また、多くの企業が「人材」を「人財」と表現するように、従業員の成長は企業の持続的な競争力の源泉となっています。効果的なキャリア開発施策は、従業員のエンゲージメント【2】向上や、組織の知的資産の蓄積にも貢献します。

キャリア開発が注目されている背景

キャリア開発が注目を集めている背景には、さまざまな社会の変化があります。これらの変化に伴い、企業と個人の双方にとってキャリア開発の重要性が増しており、以下のような具体的な要因が存在します。

デジタル化とテクノロジーの進化

AIなどの進化により、ビジネス環境は劇的に変化しています。業務の自動化が加速する中、従業員には高度なデジタルリテラシーが求められるようになりました。従来の職種が大きく変容し、データサイエンティストやAIエンジニアなど、新しい専門職が次々と誕生しています。このトレンドは今後も続くと予測され、継続的なスキルアップデートの重要性が増しています。

柔軟な働き方と人材市場の変革

働き方改革とテクノロジーの発展により、働く場所や時間の制約が大きく緩和されました。副業・兼業の一般化やリモートワークの定着により、個人が複数のキャリアを同時に追求することが可能になっています。さらに、ジョブ型雇用【3】の広がりや専門性の高い人材への需要増加により、転職に対する社会的認識も大きく変化しています。このような変化において、戦略的なキャリア開発がますます重要となっています。

人的資本経営の重要性の高まり

近年では「人的資本経営【4】」の考え方が企業経営において重要性を増しています。これは従業員を単なるコストではなく、企業価値を創造する「資本」として捉える経営アプローチです。人的資本経営では、従業員の知識・スキル・経験を企業の重要な資産として評価し、人材への投資を通じた企業価値の向上を目指します。

また、人的資本経営は従業員のWell-being(ウェルビーイング)【5】を重視します。従業員の健康維持、成長機会の提供、多様な人材の活用を通じたイノベーション創出など、包括的な人材価値の向上を目指すこのアプローチは、従来の人材マネジメントを戦略的な視点で捉え直すものであり、キャリア開発施策の重要性を一層高めています。

キャリア開発の具体的な施策と取り組み 

企業におけるキャリア開発は、従業員の成長促進と組織の競争力向上を実現する重要な戦略です。キャリア開発を成功に導くための具体的な施策をご紹介します。

1. 社内育成・スキル開発プログラム

現代の社内育成プログラムは、個々の従業員のニーズに応じた柔軟な学習体験の提供が主流になっています。従来の「全員一律の研修」から脱却し、学びの場が個人にとってより効果的かつ実践的なものへと進化しています。

具体的な取り組み例:

  • マイクロラーニング
    短時間で学べるコンテンツを提供し、業務の隙間時間にスキルアップを実現します。たとえば、5分間の動画や簡易クイズ形式の教材などが効果的です。

  • オンデマンド型学習プラットフォーム
    オンラインプラットフォームと社内独自の教材を組み合わせ、24時間いつでも学習可能な環境を提供します。外部コンテンツと内製教材を連携させることで、実践的な学びを実現しています。

  • プロジェクト型学習
    IT業界での「アジャイル開発」を活用したシステム開発、マーケティング業界での「新製品プロモーション」戦略、製造業での「生産プロセス改善」など、業務に直結するプロジェクトを通じて現場の課題を解決しながら学ぶことで、実践的なスキルを習得します。

  • メンタリング制度
    経験豊富な先輩社員が、キャリアの方向性や日常業務の改善方法をアドバイスする仕組みを構築します。これにより、新人社員の早期戦力化が図られます。

2. キャリアパスの可視化

キャリア開発において、自分がどのように成長できるかを明確にイメージできる環境が重要です。これには、職務ごとのキャリアパス【6】を具体的に示すことが欠かせません。キャリアの透明性を高めることで、従業員の長期的なモチベーションを維持しやすくなります。

具体的な取り組み例:

  • 職務ごとの成長段階を図式化したキャリアマップ【7】の提供
  • 次のキャリアステップに必要なスキルセット【8】の明示
  • 社内公募制度の活用によるキャリアの選択肢拡大
  • リーダーシッププログラムを通じた将来の管理職育成
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3. キャリアカウンセリングの充実化

キャリアカウンセリングは、従業員一人ひとりの成長を促進するためのパーソナライズされた支援です。

具体的な取り組み例:

  • 1対1の定期的なカウンセリング
    従業員の個別ニーズに応じたキャリア相談を実施。具体的なスキル開発やキャリアプランの設定をサポートします。

  • AIを活用した適性診断
    最新のテクノロジーを活用して従業員の適性を分析し、個別の成長プランを作成します。

4. 継続的な成長支援

キャリア開発は一度の取り組みで終わるものではなく、継続的な成長を支援する仕組みが求められます。

具体的な取り組み例:

      • ビジョンの定期的な見直し
        従業員がライフステージに合わせて目標を再設定できるようサポートします。

      • 実現可能なアクションプランの策し
        達成感を得やすい小さなゴールを設定し、成功体験を積み重ねていきます。

      • フィードバック文化の醸成
        上司と部下がオープンなコミュニケーションを通じて、建設的なアドバイスを共有します。
      • モチベーション維持
        内外部のセミナーや表彰制度を活用し、従業員の自己実現を応援します。

キャリア開発に関する助成金制度  

キャリア開発を効果的に進めるため、厚生労働省が提供する各種助成金制度を活用することも効果的です。これらの制度を利用することで、従業員の能力開発にかかるコストを軽減しながら、効果的なキャリア支援を実現できます。

<人材開発支援助成金>

従業員の職業訓練を実施する事業主に対して、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。

人材育成支援コース
教育訓練休暇等付与コース
人への投資促進コース
事業展開等リスキリング支援コース
建設労働者認定訓練コース
建設労働者技能実習コース
障害者職業能力開発コース

参考リンク:人材開発支援助成金|厚生労働省

<キャリアアップ助成金>

非正規雇用労働者のキャリアアップを促進する取組を実施する事業主に対して助成します。

<正社員化支援>
正社員化コース 
障害者正社員化コース

<処遇改善支援>
賃金規定等改定コース
賃金規定等共通化コース
賞与・退職金制度導入コース
社会保険適用時処遇改善コース

参考リンク:キャリアアップ助成金|厚生労働省

 

これらの助成金制度の詳細や最新情報については、各都道府県の労働局またはハローワークに確認することをお勧めします。また、制度の内容は年度ごとに更新される可能性があるため、申請前に最新の情報を確認することが重要です。

経営者・人事担当者のための「キャリア開発」Q&A 

Q1:キャリア開発は若手社員以外にも必要ですか?

 A: はい、キャリア開発は年齢に関係なく、すべての従業員にとって重要な取り組みです。若手社員は基礎スキルの習得と専門性の開発に焦点を当て、中堅社員はマネジメントスキルの向上とリーダーシップの開発を目指します。そして、ベテラン社員は豊富な経験を活かして知識移転やメンターとしての役割を担うことで、組織全体の成長に貢献します。このように、各年代に応じた適切なアプローチを取ることで、効果的なキャリア開発が実現できます。

Q2:キャリア開発でスキルアップすると転職されてしまうのでは?

 A: むしろキャリア開発は従業員の定着率を高める効果があります。適切なキャリア開発支援は、従業員の成長意欲を組織内で実現する機会を提供し、組織への帰属意識を強化します。さらに、キャリア開発を通じて築かれる上司と部下の信頼関係は、チームワークの向上や職場環境の改善にもつながり、結果として組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。キャリア開発は個人と組織の双方にとってWin-Winの関係を築く重要な施策といえます。

Q3:部下のキャリア開発を支援する際に管理職が気をつけるべきことは?

 A: 部下一人ひとりの志向性や強みを理解し、個別の成長機会を提供することが重要です。定期的な1on1面談の実施、適切なフィードバックの提供、チャレンジングな業務機会の創出、キャリアパスの提示など、きめ細かいサポートが求められます。また、部下の自主性を尊重しながら、組織目標との整合性を図ることも重要です。

まとめ

キャリア開発は、個人と組織の持続的な成長に不可欠な要素であり、その成功には組織による支援体制の整備と個人の主体的な取り組みのバランスが重要です。急速に変化する現代のビジネス環境において、戦略的なキャリア開発の重要性は今後さらに高まっていくでしょう。企業においては、従業員の継続的な学習と適応を心がけ、個人と組織のニーズのバランスを保ちながら、テクノロジーの活用と人間的成長の両立を図り、長期的な視点での投資と評価を行うことが求められています。

関連用語

【1】デジタルトランスフォーメーション(DX)

デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織文化を根本的に変革し、顧客価値や競争力を高めるプロセス。単なるIT化ではなく、デジタル技術を核とした経営戦略の変革を意味する。

【2】エンゲージメント (Engagement)(リスキリング用語集⑧

従業員の仕事や組織に対する熱意、関与度を表す概念。生産性向上や離職率低下につながり、組織の成長に重要な要素。

【3】ジョブ型雇用(リスキング用語集⑤

個人の職務や役割を明確に定義し、その職務に適した人材を採用・配置する雇用形態。

【4】人的資本経営(リスキリング用語集①

従業員を単なるコストではなく、企業の成長と価値創造の源泉となる重要な資産として捉え、戦略的に活用する経営手法。

【5】Well-being(ウェルビーイング)

身体的・精神的・社会的に良好な状態を指し、健康で満足感のある生活を送ること。企業では、従業員の健康や職場環境の向上が重要視され、持続可能な成長を支援する施策として取り入れられている。

【6】キャリアパス(Career Path)

従業員の職業人生における成長の道筋。個人の能力開発や目標達成を支援するとともに組織の人材育成戦略にも役割を果たす。

【7】キャリアマップ(Career Map)

個人のキャリア開発の道筋を視覚的に表現したもの。将来のキャリア目標までの成長経路、必要なスキル、経験を明確化し、キャリア計画の立案や人材育成に活用する。

【8】スキルセット(Skill Set)

個人が持つ知識、能力、経験の総体。職務遂行に必要な複数のスキルの組み合わせを指す。