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スキルディクショナリ すきるでぃくしょなり

公開日:2025.04.15
スキルディクショナリ

近年、急速な技術革新やビジネス環境の変化に伴い、企業にとって「リスキリング」の重要性が高まっています。リスキリングとは、従業員の既存のスキルを更新し、新しい能力を身につけさせることで、変化する職場のニーズに適応させるだけでなく、新しい業務や職業にも対応できるようにする取り組みです。

本用語集では「スキルディクショナリ」に関連する概念を初心者にもわかりやすく解説していきます。

「スキルディクショナリ」をひとことでいうと?

スキルディクショナリは、組織内で必要とされる職務遂行能力(スキル)を体系的に整理・定義し、人材戦略の最適化を支援するデータベースです。

スキルディクショナリ の基本概念

スキルディクショナリとは、企業が従業員のスキルを一元管理し、組織の人材戦略を最適化するための体系的なリストやデータベースのことを指します。たとえば、「Webデザイン」というスキルであれば、HTML/CSSの基本的な理解から、高度なUI/UXデザインまで、具体的なレベル分けと評価基準を設定します。これにより、従業員の持つスキルを標準化し、可視化することで、適材適所の配置や人材育成、採用戦略の最適化に役立ちます。

スキルディクショナリが注目されている背景

近年、スキルディクショナリが注目されている背景には、以下のような要因があります。

DXの加速による職務要件の変化

企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)【1】推進に伴い、クラウド、AI、データ分析などの新しい技術スキルの需要が急増しています。このような急速な変化に対応するには、体系的なスキル定義と評価の仕組みが重要になっています。

人材育成の効率化

従業員の現在と目標のスキルレベルの差を正確に把握することが、効果的な人材育成の第一歩となります。個々の社員の強みと弱みを明確に特定し、それに基づいて適切な研修プログラムを選定することで、育成効果を最大化できます。このような計画的な人材育成を実現するには、明確なスキルの指標が不可欠です。

採用活動の質の向上

採用活動において、求める人材像をスキル要件として具体的に示すことは、ミスマッチを防ぐ重要な要素です。面接官間で評価基準を統一し、より客観的な判断を可能にすることで、優秀な人材の確保につながります。このような採用プロセスの質を高めるためにも、共通のスキル評価基準が求められています。

iCDにおけるスキルディクショナリの位置付け

iCDとは、iコンピテンシディクショナリの略で、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)によって公開された、IT人材に求められる業務と能力を体系化したフレームワークです。IT企業や情報システム部門において、人材育成やキャリア開発の基準となる標準的な指標として広く活用されており、組織全体のスキルディクショナリを補完する重要なツールとして位置づけられています。
iCDは、企業成長に必要なタスクとスキルを体系的に網羅し、必要な戦略と人材を明確にします。構成要素は、以下の2つから成り立っています。 注)

  • タスクディクショナリ
    IT関連の業務を遂行する上で必要となる作業項目(タスク)を体系的に整理したものです。具体的な業務内容や役割を定義しています。
  • スキルディクショナリ
    タスクの遂行に必要となる知識や能力のスキルを体系的に整理したものです。技術的スキルだけでなく、ビジネススキルやヒューマンスキルも含まれます。

これら2つのディクショナリが連携することで、特定の業務(タスク)の遂行に必要なスキルを明確に把握することができ、より効果的な人材育成や評価が可能となります。

出典:iCD協会/iCDについて/iCDとは/iCDは辞書

人材育成のための施策を効率的に推進

タスクディクショナリとスキルディクショナリで構成されているiCDは、「タスク(業務)」と、「タスク遂行に必要な能力」とを構造的に表現して、必要に応じて取捨選択することで、企業や組織のあるべき姿や人材育成のための施策を、根拠をもって効率的に推進することができます。

参考リンク:iコンピテンシディクショナリ解説書

 

注)  IPA(独立行政法人情報処理推進機構)によるiCDの活用促進活動は、その役目を完了したとして2022年度をもって終了しております。(各種資料はアーカイブにて公開中)。なお、iCDに関する新たな調査研究・普及啓発・情報提供などについては、2018年に設立された一般社団法人iCD協会によって行われています。

 

参考リンク:IPAアーカイブ iコンピテンシディクショナリ

参考リンク:iCD協会 iCDとは

スキル管理ツール関連用語のちがい

スキル管理には、スキルディクショナリ以外にもいくつかの関連するツールがあります。
それぞれ組織の人材マネジメントにおいて重要な役割を担っています。これらは単独でも有用ですが、互いに連携させることで、より効果的な人材管理が可能となります。

スキルタクソノミー【2】

概要:スキルを体系的に分類し、階層構造で整理したもの。
特徴:スキルを大カテゴリ・中カテゴリ・小カテゴリと階層的に整理する。
活用:業界全体のスキル標準を作成、企業内のスキル体系の整備。

スキルディクショナリ

概要:企業内のスキルを標準化し、データベース化したもの。
特徴:各スキルの定義、レベル、評価方法などが整理されている。
活用:従業員のスキル管理、人材配置、教育計画の策定。

スキルマップ【3】

概要:従業員ごとのスキル保有状況を可視化したもの。
特徴:従業員がどのスキルをどのレベルで持っているかを一覧で確認できる。
活用:プロジェクトチームの編成、スキルギャップの特定、教育プランの作成。

 

スキル管理ツール 目的 具体的な活用方法
スキルタクソノミー

 スキルを体系化・分類

 業界標準の作成
 人材開発フレームワークの構築

スキルディクショナリ  スキルをデータベース化

 スキル標準の策定
 人材戦略の最適化

スキルマップ  スキルの可視化

 社員のスキル評価
 適材適所の配置

スキルディクショナリの実務的な活用方法

スキルディクショナリは、組織内で必要とされる職務遂行能力を体系的に整理・定義した仕組みです。この仕組みを活用することで、組織全体の人材マネジメントを効果的に推進することができます。

パフォーマンス管理と評価基準の確立

従業員のスキルを可視化し、客観的な業績評価を実現します。四半期ごとの評価で成長度合いを数値化し、公平な昇進・昇給の判断材料として活用できます。

戦略的な人材育成・配置

個人やチームのスキルギャップを特定し、最適な研修プログラムを策定します。また、プロジェクトに必要なスキルを持つ人材を効率的に配置することで、組織全体の生産性を向上させます。

キャリア開発支援

社員が目指すポジションに必要なスキルを明確化し、個々のキャリアプランの策定を支援します。特に、次世代リーダーの育成において、習得すべきリーダーシップスキルを明確化し、計画的な育成を実現します。

新入社員の教育と支援

内定者や新入社員に期待されるスキルを明確に示し、成長の方向性を理解させることで、効果的な育成を実現します。

スキルの再開発・能力向上

デジタル化やビジネス環境の変化に応じて必要となる新しいスキルを特定し、リスキリング【4】アップスキリング【5】を通じて計画的な人材育成を推進します。

経営者・人事担当者のための「スキルディクショナリ」Q&A

Q1:スキルディクショナリはどのような企業に最も適していますか?

A: 組織の規模や業種を問わず、人材育成を戦略的に進めたい企業であれば効果的に活用できます。特に技術革新の速いIT業界や製造業では、急速に変化するスキル要件への対応が必要なため、その効果が顕著です。導入を検討する際は、自社の課題や目指す方向性に合わせて、適切な範囲と詳細度を設定することが重要です。

Q2:スキルディクショナリと従来のスキル管理表の違いは?

 A: 従来の管理表が単にスキルレベルを数値で記録するのに対し、スキルディクショナリは組織全体で共有される詳細な基準として機能します。例えば、「プログラミングスキル:レベル3」という簡易な記録ではなく、「システムの設計から実装まで独力で行い、新メンバーへの技術指導ができる」といった具体的な行動基準を定義します。これにより、人材育成や適切な配置、公平な評価など、より戦略的な人材マネジメントが可能となります。

Q3:スキルディクショナリはどのシステムと連携できますか?

 A: スキルディクショナリは、主要な人事系システムと連携して活用できます。タレントマネジメントシステム(TMS)【6】では人材評価や配置を、ラーニングマネジメントシステム(LMS)【7】では学習コンテンツの推奨や進捗管理を効率的に行えます。さらに、人事情報システムや業績管理システムとの連携により、より総合的な人材マネジメントが可能となります。

まとめ

スキルディクショナリは、企業の人材管理における重要なツールとして、適切な人材配置と育成計画の立案を支援します。新規事業に必要な人材の発掘や次世代リーダーの育成計画策定など、具体的な活用場面が多岐にわたります。長期的には従業員のスキル向上と最適な人材配置を通じて、企業の競争力強化に大きく貢献します。

特に、デジタルトランスフォーメーションをはじめとする急速な環境変化において、スキルの可視化と最適化は企業の持続的成長に不可欠です。組織の規模や目的に応じて、適切な範囲を設定し、段階的に整備していくことが成功のポイントとなります。

関連用語

【1】DX(デジタルトランスフォーメーション)

デジタル技術を活用して、ビジネスモデルや組織文化を根本的に変革し、顧客価値や競争力を高めるプロセス。単なるIT化ではなく、デジタル技術を核とした経営戦略の変革を意味する。

【2】スキルタクソノミー(Skill Taxonomy)(リスキリング用語集26

組織内で必要とされるスキルを体系的に分類・整理した枠組みのこと。

【3】スキルマップ(Skill Map)(リスキリング用語集23

現在の組織能力と将来必要となるスキルのギャップを特定するために、個々および組織全体のスキル状況を可視化したもの。

【4】リスキリング(Reskilling)

従業員に新しいスキル、能力を習得させることで、職場の変化や新たな業務にも対応できるようにする取り組み。

【5】アップスキリング(Upskilling)

現在の職務や役割でより高度な能力を身につけるため、既存のスキルを向上させたり、新しいスキルを習得したりすること。

【6】タレントマネジメントシステム(TMS:Talent Management System)

従業員の能力や潜在性を最大限に引き出すための戦略的な人材管理システム。採用、育成、評価、配置など、人材に関する包括的な管理を行う。

【7】ラーニングマネジメントシステム(LMS:Learning Management System)

従業員の教育・研修を効率的に管理・運営するためのシステム。eラーニングコンテンツの提供、学習進捗の追跡、成果の評価など、組織の学習活動を包括的に支援する。